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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)3639号 判決

主文

被告は原告に対し金二十萬円及びこれに対する昭和三十一年六月一日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

本判決は原告勝訴の部分に限り金七萬円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

(省略)

理由

一、成立に争がない甲第一号証と証人中田信子の証言を併せると原告と訴外中田信子とは昭和十九年頃事実上結婚し、同二十三年四月十六日その婚姻の届出をして夫婦となつたものであるが、同三十一年四月二日協議離婚をしたことが明かである。

二、証人中田信子の証言及び原告本人尋問の結果並びに被告本人尋の結果の一部を総合すると、原告と訴外中田信子とは結婚後円満な家庭生活を営んでいたところ、右信子は当時千代田区鎌倉町の松竹勧業という金融業者の所に勤めていた被告から金借したことより被告と知り合い、その後被告から別に金融業を開業したとの知らせを受けたので、原告には無断で二回に亘り合計金七萬円の金借をした。その金融交渉の際被告より「私は妻と肉体関係を二、三年結んで居らず、精神的肉体的に苦痛である。」などと告げられ、当時右信子も精神的に動揺していたときであつたので、両人は打合せの上昭和三十年四月頃熱海市の旅館南こう園に同宿し、その際被告は右信子に原告なる夫があることを知りながら同人と情交関係を結び、その後も引続き千代田区飯田橋の某旅館に三回位宿泊して右信子と肉体関係を結び、因つて被告は故意に右信子の夫である原告の夫権を侵害したこと、右信子はその後、原告に対し右事実を告白し、原告はこれを聞いて憤慨し、且つ同人を殴打するなどして詰責し、その上右不貞が原因となつて原告と右信子とは前記のとおり協議離婚するに至り、ために原告の家庭は破壊せられた。そして原告は被告等の不貞行為により精神上苦痛を蒙らしめられた事実を認めることができる。被告は右中田信子との情交関係を否認し、被告本人尋問において右認定に反する供述をしているけれども、この供述は前記証人中田信子の証言に対比すれば、到底信用できないし、他に右認定を左右するに足りる資料はない。

はたしてしからば被告は原告に対し右被告の行為により原告に蒙らしめた精神的苦痛、夫婦関係に基く家庭の和合を破壊したことに対し、慰藉すべき義務があり、その方法として慰藉料を支払つてこれをなすべきである。

そこでその慰藉料の額について考えるに原告は金五十萬円及びこれに対する訴状送達の翌日から右完済に至るまで年五分の割合による損害金を請求するけれども原告本人の尋問の結果によれば原告は飲食店を経営し、これによつて月額約金六萬円の純益収入を挙げて居ること、及び原告はその後再び被告(原文ノママ)と同棲生活をしていることが認められ、被告本人尋問の結果によれば被告は現在月額約三萬円の収入を得て居り、昭和二十三年頃建築した本造瓦葺平屋建家屋一棟建坪約十五坪を所有していることが認められる。この認定事実に前段において認定した事実その他諸般の事情を勘案するときは被告が原告に支払ふべき慰藉料は金二十萬円を以つて相当とするから、被告は原告に対し右金二十萬円及びこれに対する本件訴状が被告に送達せられた日の翌日が昭和三十一年六月一日であることは本件記録によつて明かであるから同日より右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。従つてこの限度において原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、これを超える部分は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十一条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中宗雄)

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